顎関節症は症状が軽ければ、自分で生活習慣などに気をつけることで症状が無くなることもありますが、一週間ほど様子を見ても症状が改善しない場合や、痛みが強い場合、心配な場合には、病院で診察してもらうことをお勧めいたします。
では、顎関節症は何科に行けばいいのでしょうか?通常、顎関節症は歯科で治療することがほとんどです。ただ、顎関節症の治療は、最近ようやく確立されてきてはいますが、大学の授業では、そんなに詳しくは教えていません。また、顎関節症の治療について世界的な声明が出ているのにもかかわらず、いろんな考え方の先生がいるのも事実です。ただこれまで書いてきたように顎関節症は、基本的には保存療法といって、歯を削ったり、手術をしたりしないでほとんどの症状が治ります。顎が悪い時は、筋肉や関節の状態が悪く、それにより顎の位置がずれてしまっていることがあり、これは症状が治まれば自然に治る場合も多いです。その時に慌てて歯を削ったりしてしまうと返って治った後に咬み合わなくなったり、それによって逆に症状が悪化する場合があるので、治療を行うに当たっては良く先生の説明を聞いて下さい。また症状が軽い場合は良いのですが、重い場合、顎以外の症状が強い場合には、他の病気と重なっていることもあるので、顎関節学会の専門医が近くに入れば相談された方がいいと思いますし、近くにいない場合は、大きな総合病院に行くとよいでしょう。
最初に来院されたら、顎関節症かどうかの診断をします。顎関節症と同じような症状を示す病気や同時に違う病気にかかっていることもあるので、現在の症状が顎関節症から来るものかどうかを診断することは重要です。
顎関節症であるとすると、これまでお話ししてきたように、生活習慣やストレスなどが関連していることが多く、似たような症状でも、問題は人それぞれ違いますので、症状やこれまでの経過、お体の状態や飲んでいる薬、お仕事について、寝る向きや歯ぎしりなどなど多くのことをお聞かせいただきます。まず最初に、質問票にご記入いただき、それをもとにいろいろとお聞きしていくことになります。(医療面接)
質問票にそってお話を聞いた後に、痛みの部位の確認や口の開き具合、関節の動き具合、筋肉の状態を触ったり、口の開く量を物差しで測ったりします。現在、世界的な診察・検査法があり、それに沿って行っていきます。
次にお口の中の状態を確認します。舌やお口の粘膜にかみしめている証拠となる跡はないか?歯に問題はないか?歯肉は?咬み合せは?
その後に、顎のレントゲン。必要であれば顎が普通に動いているか、奥歯で咬んだ時と、口を開いた時の関節のレントゲンを撮ります。また場合によってはお口の中の写真を撮ったり、咬み合わせを診るための模型を作るための型や咬み合わせの状態を記録します。
鑑別診断
まず現在の症状が顎関節症かどうかを診断し、もし顎関節症でなければ、診断した疾患に対する治療を行います。疾患によっては大学病院などの高次医療機関へ紹介させていただきます。
病態診断
顎関節症と診断した場合には、その病態が咀嚼筋や顎関節の痛みの問題、関節円板、骨の変形など何が主な原因かを診断します(病態診断)
1)どんな状態か説明(病態説明)
通常のう蝕などと違って、痛みがあるところが特定できず、不安であると思いますので、どんな状態になっているかの説明を行います。
原因が分かったことで安心するためか、説明する事だけで症状が落ち着くこともあります。
顎関節症か、そうではないのか? どの部位に問題があるか?
考えられる原因は何か?などについてお話しします。
2)セルフケアの指導
次に自分でできる事(セルフコントロール)について、守るためのセルフコントロールと機能改善のセルフケアについて指導させていただきます。(セルフケアを参考にしてください)
顎関節症の治療で一番重要なのは、まず顎関節症という疾患を知り(疾患教育)、自分の病態を知ること(病態説明)です。その上でセルフケアを行うこと顎関節症の治療の主体になります。
顎関節症は、基本的に顎関節、咀嚼筋の運動障害なので、腰痛や肩部痛と同じように、運動療法が治療の主体となります。
運動療法には、患者さん自身が行うセルフケアと医療者が行うプロフェッショナルケアがあります。セルフケアについては機能改善のセルフケアを参考にしてください。
医療者が行う運動療法は、徒手的顎関節授動術といわれ、医療者が患者さんの口の中に手を入れ顎を引っ張り、顎関節・咀嚼筋のストレッチを行います。
場合によってはレーザーや低周波治療器を使用する場合もあります。(物理療法)
起床時の痛みが強く、歯ぎしりが関係していそうな場合、顎に負担が掛かっていて症状が出ている場合にはスプリント(アプライアンス)というマウスピース様の装置を製作するための型を取って、スプリントを作ります。主には夜寝ているときに装着していただきますが、力のかかる方向によっては装着することでかえって痛みが増すことがあります。その場合には、スプリント上で咬んでいる位置を直す、あるいは顎が後ろに下がり関節を圧迫しないように、スプリントの形を変えます。
顎関節症は、基本的に動かしたときの痛み(運動痛)なので、薬を使うことは少ないですが、痛みが強い場合には、痛み止めを使います。痛み止めを服用し、痛みが押さえられている間に、運動療法を一生懸命行うことで、痛み止めが切れても痛みが無い状態が保てるようになります。
筋肉の慢性的な痛みや凝りには、葛根湯。眠りが浅く咬みしめが強くなる場合には、抑肝散など漢方が効果的な場合もあります。
3ヶ月以上痛みが取れない、口が開かないなど症状が治らない場合には、他の疾患である可能性や関節の問題が大きい可能性があるので、口腔外科でMRIやCTなどを撮影し、治らない原因を探します。関節の中の炎症が取れないことが問題の場合には、薬を注射して関節の中を洗ったり、内視鏡を見ながらきれいにしたりします。
日本顎関節学会では、顎関節症治療を行う場合、最初から咬み合わせの治療を行うことについて推奨していません。これまでお話ししてきたように、最初から咬み合わせの調整をすることはあまりありません。ただ顎の状態が良くなった時に、噛む位置が変わってしまう事があるので、その場合に食事が食べづらいなどの問題が生じることがある。あるいは、そのままの咬み合わせでは顎に負担が掛かり、症状が取れづらいなどの問題がある場合は、慎重に咬み合わせを治します。ただ治すに当たりましては、どのような意図と方法で治療を行うかについて良く担当から説明してもらい納得したうえで治療を行うことが大切です。